All or only?

ロックの『ミラージュダイブ』がイエロードラゴンに炸裂した。
他にモグとウーマロも居たのだが、二人〔二匹?〕ともイエロードラゴンの『はないき』で吹飛んでしまっていた。
ティナの『クエイク』がイエロードラゴンに止めを刺した。
断末魔と共に、イエロードラゴンは絶命した。

「あ・・・っぶなかったあ、ティナ、ケアルガしてくれよ」
「うん、判った」

がれきの塔は異常な瘴気に包まれていた。
今や神に限りなく近いパワーを手にしたケフカを止められるのは、
もはやティナたちしか居なかった。敵の総本山であるがれきの塔において、パーティがたった二人である。
自殺行為に他ならない。パーティを三つに分けたうちの第二パーティであるティナたちは、
非常に危険な状態に晒されていたといえよう。

「ま、何とかなるだろ。その内合流出来るって」

ロックは明るく言った。もう二十五歳である。
しかし彼の笑顔はそんな年齢を感じさせない、まるで少年のような笑顔だった。
ティナはこの笑顔が好きだった。全てを優しく包み込んでくれるロックの笑顔。
レイチェルに見せた笑顔。そしてセリスに見せる笑顔。
自分に見せてくれる笑顔。
全部大好きだった。
しかし、いつの頃からだろう。
ティナはこの笑顔を複雑な気持ちで見つめていた。
ティナには上手く表現出来ない。
自分でも良く判らないこの気持ち。

『愛』・・・?
これは・・・『愛』なの?

何度かそう考えたこともあった。
しかし『愛』とは、ティナがモブリズの子供たちを守ろうとした時感じたもののはず。
今ロックに感じているこの気持ちは、その時のものとは明らかに違っている。

『愛』ではない・・・はず。

「セリスたち大丈夫かな?」

突然のロックの言葉にティナの胸が大きく鼓動した。
否、こう書くと語弊があるだろうか。
正確には『ロックの言葉の中に含まれていた名詞』に反応したのだ。
セリス。
とても美しい、ロックの大切な人。
ロックがセリスに笑顔を見せる度、ティナの心には何か黒いものが溜まっていった。
セリスがロックに触れる度、ティナの身体は熱く火照った。
なんとなく・・・見ていられなかった。
見ていたく・・・なかった。

「・・・い、おい、ティナ?」

又しても呆けていた。ロックが不思議そうに眺めている。

「しっかりしろよ。どこかやられたのか?」

ティナの肩にロックが手を掛けた。
身体が熱くなり、頬が紅潮するのが判った。
思わずティナは・・・

「だだ、大丈夫だから・・・です」
「・・・?」
「さ、さ、いい・・・行こう!?」
「何だあ?・・・ま、いいか。じゃ、行こうぜ」

ロックは歩き出した。
必死で顔を抑え、火照りが直るように待つ。
 この先、二人だけでは心許ない。
パーティは、二人しかいないのだから。

「気を・・・引き締めなくちゃ!」

ティナは独り言のように、そう繰り返していた。

『同時刻。第一パーティ・エドガー、マッシュ、セリス、シャドウ』
 
恐らく三つのパーティ内で最強の力を持つであろう第一パーティ。
エドガーをリーダーにがれきの塔を進んでいた。

「タァああァァアイグゥワあぁあァアアァブレええェエェェイク!!!!」

その戦闘力はべヒーモスを秒殺するほど・・・

「動いたら・・・死ぬぞ」

周りのモンスターを・・・

「インターセプター・・・やれ」

寄せ付けなかった。

「残念!『まふうけん』!!」

だが第一パーティは道に迷っていた。
何しろ方向音痴ばかりの集まりだったのだから。

「あれぇ!? ここ前も通ったよなあ・・・」
「どこかに隠された道があるに違い無え!」
「それを探してるんだろうが・・・」
「・・・これじゃ駄目だわ・・・」

セリスは落胆した。
そして、愛する人の安否を心配した。
ロック、大丈夫かな・・・。
早く会いたい・・・。

「みんな静かにッ!!」

人一倍五感の鋭いマッシュが言った。

「何か居るぞ・・・構えてろ」

シャドウも気付いたようだ。
セリスも少女の眼から『セリス将軍』の眼へと変化を遂げ、身構えた。
確かに・・・何かの気配がする・・・モンスターか?

「ああっ!! みんないたクポ!!」
「うがーうがー」

現れたのはティナのパーティのはずのモグとウーマロだった。
セリスたちも、ほっと胸を撫で下ろした。

「何だお前らか・・・どうした? ロックとティナは一緒じゃないのか?」
「そうそう、大変クポ!! ボクたち『はないき』で飛ばされちゃったクポ!!

ティナとロックとはぐれちゃったクポ!! ここのモンスター強いクポ!!
早く合流しないとヤバイクポ!! やられちゃうクポ!! 手遅れになるクポ!!
二人きりじゃ危ないクポ!! 危険だクポ!! 死ぬクポ!! クポ!! クポ!!」

「落ち着けよ・・・『デスペル』!」

しゅわっと音がして、モグの頭から熱気が吹き飛んだ。

「あ、ありがとうクポ・・・落ち着いたクポ」

幾らかモグが冷静さを取り戻した・・・が、本当にデスペルをかけるべきだったのは・・・。

「二人・・・きり?」

セリスだったのかも知れない。

「ボク、『モルルのお守り』付けてるから二人でも平気クポ。

このままロックとティナ探すクポ!!」

「ああ。そうした方がいいな」
「行くクポ、ウーマロ」
「うがー」

モグとウーマロは行ってしまった。

どうして「二人きり」というモグの言葉にここまで動揺してしまったのだろうか。
ロックとティナがどうだというのだ?
私はロックもティナも信じている。
二人とも大切な仲間ではないか。
何をそんなに心配している。
ロックは・・・私を守ってくれると言ってくれた。
でも・・・でももしかしたら・・・ロックは・・・。

「そんなに気になるか」

危うく声を上げるところだった。
突然だったからもあるし、図星だったのもあるが、
それを言ったのがシャドウだということが一番の理由だ。

「なな、何が!?」

あからさまに気にしていることがばれてしまう言い方だった。

「心配など、するだけ時間の無駄だ。俺たちにはあの二人が何をしているかなど・・・知る術は無いのだからな」
「で、でも・・・」
「忘れるな。ロックはレイチェルの代りではない『おまえ自身』を選び、
守ると誓ったのだ。これがロックにとってどれほど重大な決断だったか・・・知らぬ訳ではあるまい?」
「シャドウ・・・」
「お喋りが過ぎたな・・・本来の目的を忘れるな。先は長い。行くぞ」

シャドウがここまで饒舌に語るとは思いも寄らなかったが・・・。
言っていることは実に的確だ。
私念など持ち込んで倒せるほど、ケフカは弱くない。
セリスは、再び歩き始めた。

『第三パーティ・ロック、ティナ、モグ(行方不明)、ウーマロ(同)』

「ごめんな、こんなのしか持ってきてなくて」

ロックは持参した飲料水をティナに差し出しながら言った。

「ううん、謝るのは私の方。ごめんね、ヘバっちゃって」
「気にすんなって、俺も少し疲れたと思ってたからさ」

 二人がいるのはセーブポイントの上。悪しき魔物は侵入出来ない。
このがれきの塔にあって、一息つける数少ない場所であった。

「この際だ、何か食うか?」
「えっ!? 食糧も持ってきたの!?」
「あるよー! 何がよろしいですか? お嬢さん?」

突然だったが、ティナは少し考えてから言った。

「じ、じゃあ・・・リン・・・ゴがいいな」
「えっ!? リ、リンゴか・・・リンゴは・・・」
「あ、あ! ごめん、無ければいいよ!!」
「さあ、どうぞ!」

ロックの手には赤々と熟したリンゴが握られていた。

「すっ・・・ごい!! ホントにあったの!?」

まるで子供のようにティナは無邪気に笑った。

「何でもあるって、言ったろ?」

ティナはリンゴを手渡され、暫くは見つめていたが、思い切ってかぶりついた。
芳醇な香りと甘美な味がティナの味覚と嗅覚を刺激した。

「おいしい」

ティナは笑った。
こんなことをしている場合ではないことは痛いくらい良く判っている。
そうだ、早く行かなくては。目前には強大な敵との戦いが待って・・・。

「そうか、良かった!!」

ロックの笑顔が、ティナの思考を全て遮断してしまった。
もう少し・・・せめて今だけは・・・。

「ティナには、そうやって笑っていて欲しいんだ。こんな辛い戦いになんて参加して欲しくないんだ。俺」

「うん・・・ありがとう」
ふと、あの人がちらついた。本当に、ふわっと。
「セリスは・・・」
口にしてから後悔した。何故今、こんな時に・・・。
「セリスは・・・参加しててもいいの?」
「セ、セリス!?」
ロックの顔が赤み掛かるのが判った。何の魔法も掛けてないのに・・・その名前だけで。

「セリスだって、女の子だよ?」
「ああ、だから・・・」
『お願い、言わないで・・・』
「俺が守ってやるって、約束・・・いや、誓ったんだ」

聞きたくなかった。言って欲しくなかった。
何・・・?
この痛みは何?
「この戦いが終わっても、俺はセリスを守り抜く。見ててくれよ、ティナ!
どんなモンスターからだって・・・」
ロックの動きが止まった。呆然とティナを見ている。
ティナは焦った。どうしたんだろう? 何か返答しなくちゃいけないタイミングかな?
「うん。そうだね・・・私も・・・?」
声が、出ない。
嘘、どうして?
「ティ、ティナ! どうしたんだよ!?」
「え? な、何・・・がっ・・・」
声が引き攣ってる。喉の奥が痙攣する。何で? どうして声が出ないの?
「お、俺、なんかヒドいこと言ったか?」
ロックはとても焦っているように見えた。
どうしてそんなこと言うの?
私、どうしちゃったんだろう・・・。
ロックがバンダナを外し、悪戯を怒られた少年のようにティナに言った。
「拭けよ。まだ新品だし、綺麗だからさ」

ティナはそこで初めて自分が泣いていたことに気付いた。
どうして・・・? 何で私・・・。

「ロック、あのっ・・・ご、ごめ・・・わた・・・しっ・・・」

全然声になってない。ますます引き攣りがひどくなっくる。
ティナはボロボロの身体に反して妙に落ち着いた精神で、ついに聞いた。

「あの・・・ね、ロック・・・」 『ロック』
「も、もし・・・セリス・・・」 『あなたがセリスと出会わなくて』
「わたし・・・ロックだけなら・・・」 『私とロックだけだったのなら』
「ロ・・・ック、私・・・を」 『あなたは私だけを』
「・・・っ!!」 『守ってくれた?』

暖かい感じがティナを包み込んだ。

「はは・・・言ってること訳判んないよ。でも・・・何だか」

抱き締めながらロックは言った。

「俺、悪いんだろうな。ごめん、ティナ」
「ち、ちがっ・・・!」
もう駄目・・・声は出ない。ロックは抱き締める力を強めた。
「でも安心してくれよな、俺、出会った時に言ったろ? 俺、ティナを・・・」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!なにやってんだこんなときにッ!!!!!!!!!」

馬鹿でかい声が二人の時を引き裂いた。
ロックがゆっくりとティナと離れる。
涙が、滝のように流れている。

「しかも・・・ロック、何泣かせてる!」

エドガー、マッシュの声の似通ったフィガロ兄弟が一気にまくし立てた。

「おや、これは俺の見当違いだったかな。済まんな、セリス」

シャドウは静かに訳の判らないことを言っている。

「ロ・・・ック・・・」

その横ではセリスが信じられないといった表情で見ていた。
その中には明らかに嫉妬の念も感じられる。

「ち、違う!! 俺は別にヤマしいことは・・・」

ロックが慌てて行ってしまった。
もう決して戻らない、二人の時間。

私、情けないな。
みんなの足引っ張ってばっかり。
何で泣いちゃったのかな?
・・・わかんないよ・・・

黒い影がティナに近付いていた。
誰も、気付いていない。

何かがティナの口を塞ぎ、手足の自由を奪った。
一瞬の出来事。そのまま物陰に引きずり込まれ・・・、

「断ッ!!」

 一筋の閃光と共にティナを拘束していたものが切断される。

「てめえッ!! 大事なティナに何しやがる!!!」
無数のダーツが突き刺さる。

「あッ!! モルボルじゃんか!!」

マッシュたちがようやく気付いた頃には、カイエン、セッツァーが対峙していた。

「コリャ、お前たち!! しっかりせんと駄目だゾイ!!」
「ホント! 男ばっかのくせにさ!!」

ストラゴスとリルムも到着した。

「グオオオオオオオオオオン!!!!!」

ケフカの魔気を受けたモルボルは、ここまで劣勢になりながらも、
初期の標的であったティナに狙いを定め、襲い掛かってきた。
モルボルの触手によって呼吸困難に追い込まれたティナは、動くことが出来ない。
モルボルが迫る。眼が・・・よく見えない。

『馬鹿ッ!! 無茶だ!!』

誰かが言うのがやっと聞こえてきた。
だが、はっきり認識することは出来ない。
誰かがティナの前に立った。
見慣れた・・・その後姿。

「約束、したじゃないか。守ってやるって。絶対、守ってやるって」

ああ、そうか。
私はロックを『愛して』いたんだ。
子供たちに感じていた、『与える愛』じゃなくて
私はロックに『愛されたい』って思ってたんだ。
ロックは、いつだって、誰だって守ってくれる。
全ての『笑顔』を守ってくれる。
だから・・・あなたの笑顔、独り占めにしたいなんてわがままだよね?
あなたは、あなたの笑顔は・・・みんなに希望を与えてくれる。
私一人じゃ、勿体無いよ。
ああ、判った。私。
ありがと、ロック。
私、ちょっとだけ『愛』って意味が判った気がする。
あなたのこと、ちょっとだけ判った気がする。

ロック
私の憧れの人。
そして・・・



私に『愛』を教えてくれた人。



















そして忘れられているモグとウーマロ。
「クポー!クポーーーーーーーー!!!!!」
「うがー」



                                 FIN
ワイティー
2001年07月30日(月) 12時18分39秒 公開
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■作者からのメッセージ
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この作品の感想です。
おもしろくもねー ■2005年01月23日(日) 16時31分00秒
クポ――――!!泣けた話っ!!・・・遅れました。初めまして。ガイツといいます。これからも、よろしくっ! ガイツ ■2001年10月10日(水) 22時05分19秒
いい話ですよ、読んでて楽しかったです。 2号 ■2001年08月31日(金) 18時11分30秒
モグとウーマロがかわいそうだーー!しかもよりによってはないき・・・・・・ 祈り子さま ■2001年08月31日(金) 14時21分07秒
次回も頑張ってください!!応援しています!! リュック ■2001年07月31日(火) 12時25分26秒
・・・・なかなかいい話だ。 アーロンさん ■2001年07月30日(月) 23時40分47秒
ワイティーさんの作品、いつも読んでます!!今回もいいですねぇ!! ゆきの ■2001年07月30日(月) 13時36分48秒
ワイティーさんはうまいですねぇ。読んでて飽きないし、面白いし(?)、話的にもいい!!!!ですね! ゆきの ■2001年07月30日(月) 13時30分00秒
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