Please Remember |
「ひとつだけ、お願いがあります」 大歓声に湧いていたルカ・スタジアムが一瞬にして沈黙に包まれた。 まるで『シン』が倒れた時のようだった。 観衆は『シン』を倒した召喚士が何を言うのか興味津々だ。 突然黙られたので、召喚士ユウナは一瞬我を忘れた。 何度も練習したのに、中々声が出ない。 「ユウナ」 大丈夫よルールー。私は一人じゃない。 「ユウナ!!」 うん。判ってるよ、リュック。大丈夫。言える。 「ユウナ、頑張れ」 ありがとう。ワッカさん。私、頑張る! 「・・・」 キマリだって、言ってくれてる。私には判る。 ナギ節はもう終らない。『シン』はもう復活しない。もう、人が殺されることは無い。 でも、もう・・・逢えない。 ユウナはひとつ、大きく深呼吸する。 「・・・いなくなってしまった人たちのこと・・・」 あ、だめ。眼が熱い・・・我慢するって、決めたのに。 「時々でいいから・・・」 時々じゃない。 私はいつまでも忘れない。 いつまでも・・・いつまでも・・・。 ××× 「・・・っ!!」 手に光が満ちてくる。いや、むしろ・・・透けている。 参ったなあ。消えるなんて、夢じゃなかったのか。 はは、何言ってんだ俺は・・・俺が『夢』なんじゃないか。 ティーダと仲間たちに呼ばれていた『祈り子』の夢は、次第に薄れ行く自らの存在を、 必死で掻き集めながら辛うじてそこに立っていた。 苦しい訳ではない。苦痛がある訳でもない。只、何も無くなるだけ・・・。 他の仲間は、みんな彼の父親の最期を見守っている。 『シン』の、エボン=ジュの最期を・・・。 これでいい。『シン』が完全に消滅するとき、俺もまた、いなくなっているはず。 そう、消えるのではなく、いなくなっているんだ。 そう考えれば、どうってこと無い。 彼女は思い出す。彼が口にした、認めたくない真実を。 そして彼女は振り向く。その真実を否定する為に。 視線の先には新入りガード君がいつものように立っている。 少々、身体の先が透けて見える以外、別段変わったところは無い。 ティーダは悪戯を見つかった子供のように笑った。 大召喚士ブラスカの娘と呼ばれたユウナは、何か否定するように首を横に振った。 ティーダは少し淋しそうな眼をした。 「ごめん、俺、帰んなきゃ・・・」 そして感覚の無くなりつつある一歩を踏み出す。 「ザナルカンド、案内出来なくてごめんな・・・」 必死で何かをこらえているような眼だった。 「そんなあ!」 リュックが落胆する。今まで一緒に戦ってきて、一番世話になった少女。 「また、会えるよね、ねえ!!」 ティーダは答えなかった。 答えを知らなかったからだ。 出来れば気付かれずに消えたいと願っていたが、もうどうでもよくなった。 ヤバイ。泣きそうだ。こんな歳になって、泣き虫だな俺は・・・。 アルベド族の飛空挺の先端に立ったティーダは、今にも風に吹かれれば飛びそうな・・・ そんな身体を感じ、眼を閉じた。 想い出すのは全ての日々。自分が出逢った全ての人。自分が聞いた、全ての言葉。 全ては無へと帰す。全ては蒼い夢だった。とても綺麗な、水の夢。 足音が聞こえた。 それは自分の足音。ティーダに向って走り出す、ユウナ自身の足音。 走り出した理由は無い。身体が、心が、全てがそうさせた。 ティーダも気付いた。 涙に濡れたその瞳は、全ての終わりを予感させた。 ティーダが手を差し伸べる。ユウナは彼に身を委ねた。 せめて一度だけの抱擁。 そこには、何も無かった。 誰もいなかった。 完全にティーダに身を任せたユウナは、ゴールしたランナーのように前に倒れた。 判っていた。 判っていたことなのに・・・どうして涙が出るのだろう。 自分の身体を、ユウナが突き抜けた。 痛くはなかった。 この手で抱き締めたのに。しっかりと受け止めたはずなのに・・・。 判っていた。 こうなることは判っていたのに・・・どうして、こんなに悲しいのだろう。 ユウナは起き上がった。 もう誰にも止められない、悲しい運命の進行を完全に許してしまったのだ。 連れて行ってくれるって、言ったのに。 ブリッツボール、見せてくれるって、君の家へ案内してくれるって、約束したのに・・・。 今度は笑って、「うん」って言えるのに・・・。 もう・・・離れたくなかったのに・・・。 全ては夢? 君も夢? あのキスも、夢? このまま消えるしかない。 ティーダは空を見上げた。 沢山の七色の光が、閃光のように、蛍のように昇っていく。 その光は、自分からも出ている。 自分も、金色の空へと還る時が来た。 もう願いは、叶わない・・・。 ユウナは立ち上がっている。 後ろを向いたままだ。 ティーダの消えてゆく姿を、見たくないかのように。 ティーダも、その方がいいと思った。 このまま消えていけば、ユウナの顔を見なくて済む・・・と。 「ありがとう」 心からの、言葉だった。 ユウナの精一杯の気持ちだった。 我慢出来なかった。 触れられなくてもいい。 抱き締められなくてもいい。 せめてもう一度だけ、彼女を感じて消えたかった。 後ろには誰もいない。 彼は、もうここにはいない。 そのはずなのに、ユウナは確かにその温もりを感じた。 判る。 後ろから、抱き締めてくれている。 ありがとう・・・私、大丈夫だよ。 ユウナは眼を閉じ、彼を感じた。 二人は、一瞬の永遠を感じた。 もう、行かなければならない。 身体はもう、殆ど無感触だ。自分でも立っているのかさえ判らない。 ユウナをよけて行く必要は無い。 そのまま、すり抜けた。 さよならは言わない。 また会えるって、信じてるから・・・。 彼はユウナをすり抜け、歩いていった。 涙は、もう無い。 悲しくなんかない。 また会えるって、信じてるから・・・。 眼下には無限の光が拡がっている。 懐かしく、暖かい光。 ティーダの、帰るべき処。 一つ、大きく深呼吸した。 スピラの匂い。 ティーダの、もう一つの故郷。 オヤジ・・・大っ嫌いだ。だから今から行く。もう少し待ってなよ。 アーロン・・・いつも勝手なことばっかり言いやがって。ありがとう。 ワッカ・・・ビサイドオーラカを頼むぜ。俺がいなくても、大丈夫だよな? ルールー・・・怖かったけど、本当は優しかった。ワッカと仲良くな! キマリ・・・あんたは絶対ロンゾ族一の勇士だ。俺が保障する! ユウナを、頼むな。 リュック・・・メシ、最高に美味かった。お前みたいな女友達が、欲しかったんだな俺は。 ユウナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だいすきだ!! 少年は走り出す。力強く、自分が存在したことを証明するかのように。 想い出すのは全ての日々。自分が出会った全ての人。自分が聞いた、全ての言葉。 全ては無へと帰す・・・だが、全ては無から始まる。 これが始まりだ。 終わりではない。 間違いない。 少年は確かに存在した。 全ての人々の記憶に、必ず残る。 そしていつの日か、人々は少年を思い出すだろう。 今、祈り子の夢は決して醒めることの無い『夢』となったのである。 少年は跳んだ。 無限の光の彼方に。 アーロン。 ユウナの父さん。 そして・・・。 「よう」 「ああ!」 それは、自らの父を超えようとし、かけがえのないものを手に入れた、或る少年の物語。 ××× 「時々でいいから・・・」 時々じゃない。 私はいつまでも忘れない。 いつまでも・・・いつまでも・・・だいすき。 ××× ・・・口・・・笛・・・? 口笛が聞こえる。 俺が教えたやつじゃないか・・・。 今、吹いてるのか? どこだ・・・? いや、どこだっていいか。 必ず飛んでいくって、約束したもんな。 ザナルカンド案内してやるって、ブリッツ見せてやるって・・・。 ここどこだ? どこだっていいか。 あー・・・良く寝た!! さあて、行くッス!!! 何故なら、彼はガードだから。 彼女の、ガードだから。 『いつか夢を見た。 その夢はとても甘美な夢だった。とても悲しい夢だった。とても痛い夢だった。 いつの頃からか、目覚めることが出来なくなった。 目覚めることが、怖くなった。 何もかも消し去って、何が残るというのだろう。 消えてしまうのが怖かった。そう、怖かったのだ。 だけど、それは逃げだと気付いた。 夢は醒めるもの・・・だから。 もうひとつの夢を見た。 夢から覚める為の夢。 とても無邪気なだった。とても泣き虫な夢だった。とても切ない夢だった。 夢から覚めたら全てが消える。 夢を終らせる夢とて所詮は夢。 消えて泡となるのがさだめ。 ・・・でも、願わくばみんなは忘れないで欲しい。 かつて見た夢は、みんなにとっては紛れも無い'真実の夢'だったのだから・・・』 ××× 「思い出してください・・・」 FIN |
ワイティー
2001年09月12日(水) 00時04分41秒 公開 ■この作品の著作権はワイティーさんにあります。無断転載は禁止です。 |
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この作品の感想です。 | ||
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エンディングの場面がすごく忠実に描かれてて、切なくて、素敵でした。ワイティーさんみたいな小説書けたらイイなー | りんりん | ■2002年01月05日(土) 21時35分56秒 |
すごくよかったです!また、書いて下さい。エンディング、目の前に浮かんできて、さらに気持ち、わかったような気がします。 | ひかこ | ■2001年10月21日(日) 19時11分45秒 |
すごく良かったです!!この続きが読みたい!期待しています☆ | 葉月 | ■2001年10月10日(水) 20時07分20秒 |
読みにくくなんかないよ!すっごくいい! | ガイツ | ■2001年10月09日(火) 20時53分00秒 |
完璧っス♪←ティーダ風(^−^) | 招き猫2号 | ■2001年10月04日(木) 20時26分46秒 |
感動したー | いけのや | ■2001年09月16日(日) 10時29分11秒 |
すごい!!私はEDからの小説をずっと探してました!あった〜!!感動しました! | シホ | ■2001年09月14日(金) 16時46分21秒 |
EDがすごくはっきり思い浮かびますね。私は気に入りました。 | AYAKO | ■2001年09月14日(金) 01時20分02秒 |
エンディングを思い出しました 次の作品も楽しみにしてます | zakusu | ■2001年09月13日(木) 22時26分31秒 |
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